鈴木大拙の講演

鈴木大拙(1870〜1966)は、西田幾多郎と同級生。正岡子規や夏目漱石と三つしか違わない人の声が聞けるとは驚きです。

大拙は言わずと知れた、禅を中心とした東洋の原理を、西洋に知らしめた人です。漱石は英国ですが、大拙は米国に渡ります。漱石と違うのは、大拙が西洋の東洋学関係の出版にたずさわったことです。そこで、西洋と東洋の間で、倫理や宗教の普遍性について深く考えたのだと思います。

例えば、大拙の『日本的霊性』は仏教哲学について学ぶことができる本とされていますが、同時に、西洋思想(ギリシャ哲学やキリスト教神学)についても知ることができます。すくなくとも、『日本的霊性』や『禅と日本文化』 にみられる大拙の思想は、基本的に西洋と東洋、あるいはキリスト教と仏教、そのどちらかを特権化する思想ではないし、仏教思想の中でも、禅思想と浄土思想のどちらかを特権化しているわけではないと思います。私の読みが間違っているかもしれないですが、あくまでも単独者として普遍を見い出そうとしているように思うのです。

たしかに、大拙はさまざまな差異を言うのですが、その差異というのは、特殊なものではないわけです。つまり、「特殊と一般」という図式に入らない。あくまで、単独なものなのだと思います。そこから、普遍的なものを見い出す。そういうスタンスだと思います。

ところで、この講演は全6つありますが、じつに面白いです。具体的に何時の講演とは書かれていませんが、戦後復興後の60年代でしょう。この講演の中ではほとんど「翻訳の問題」を語っているんですが、これはすなわち「詩の問題」でもあると思います。

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