われもまた海月でありし頃のこと 大谷弘至

昔々あるところに。こう始まる昔話を思わせる一句である。英語ではOnce upon a time。学者によれば、「この話は嘘だから信じなさんな」という宣言なのだそうだ。しかし、この句は必ずしも嘘とは言えない。この星に生命が誕生してからしばらく、生物は海月のように海の中を漂っていたときもあるのだから。もちろん、これほど遠い昔の話をする昔話もあるまいが、この一句にはそのスケールがある。

実は、以上のような読みをしたのは数年前で、今は読みが変わった。この句は、自分引きつけて読むと、もっと身近な句であるように思える。大人になりかけた青年というのは、ある意味、海月のように浮遊した生きものでもある。逆に言えば、今はもう地に足がついて、自分の足で歩いている。そういう気持ちもどこかに感じさせる。

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