樺太俳句五〇選

『樺太歳時記』(菊地滴翠編、国書刊行会発行)より、五〇句選をさせていただきました。

オホツクの汐鳴り高き初日かな   本橋碧天楼
屠蘇酌むや氷の国に住みも慣れ   上田純煌
氷海の風よくあたる注連飾     恩地樺雪
如月の島に届きし賀状かな     渡辺魯帆
氷海に凧をあげゐる人数かな    伊藤凍魚
オホツクや鱒網建てて舟ちさし   伊藤凍魚
鱒裂くや北斗の下の泊り船     上田純煌
漁場の衆唄ふ長閑や鱈架の中    森賀晴峰 *鱈架(なや)
あざらしの人に啼き寄り春の砂   伊藤雪女
落葉松の枝一斉に芽吹きけり    池内たけし
白鳥の蒼空高くかへり来し     伊藤凍魚
ツンドラの川みな赤き土用かな   岡部巴峡
葉月雪忽然と来て燦爛たり     伊藤凍魚
夏草や日本の地の果つところ    杜正典
雲の峰露領の空へ崩れけり     寺本芦村
国境に近き大河や鮭のぼる     高橋紫城
密漁船海霧の河口に消えにけり   外崎喜右
夏鰊しろがねのごとあげられし   池田浩二
密漁のくつたくもなき昼寝かな   田村硯一
日輪草民の同化のはげしさに    高桑笛風
洩るる灯やアイヌ部落も涼しげに  巌谷小波
アイヌ居て魚突きくれぬ水芭蕉   北川蝦夷王
獣皮着て鱒突く人や雨の中     田村硯一
恋に死せし土人の墓よ夏の月    寺本芦村
玫瑰に露人の恋もありぬべし    鈴鹿野風呂
駒草に海山の霧ふれあへる     鈴鹿野風呂
霧あげて山霊あそぶ駒草に     伊藤凍魚
仔を連れし熊見しといふ山火かな  伊藤凍魚
馴鹿の影を追ひけり苔桃に     臼田亜浪
苔桃に滅ぶる民の昏かりし     臼田亜浪
秋の灯のどれやチェホフの仮の宿  松根東洋城
樺太を浄めの雪や神の旅      伊藤凍魚
その日より千鳥も見えず海凍る   笹木亜寒
風花や耳ふるはせて銀狐      山本一掬
おのがじし一荷を負ふて漁夫来る  伊藤凍魚
二度凍ての海跡まざとありにけり  森井牛歩
鰊裂くや娘ざかりをどんさ着て   佐藤露草
鰊焚く湯気にかくるる星の数    恩地樺雪
氷下魚漁りにみちひとすぢの氷上かな 伊藤凍魚 *氷下魚(こまい)
大釜に降り込む雪や蟹を煮る    岡部巴峡
雪負うてデツキを這へりタラバ蟹  石川松湖
鉄漿の蜑の女房昆布焼く      高田高
襟巻の口のあたりが凍りゐし    信夫子陽
鰊漬の凍りし樽を叩きけり     沢朔風
薯焼いてこれがもてなし炉火さかん 野口蘭花
凍飯のほろほろとしてせんもなや  伊藤凍魚
樏を背負ひたるまま飲みにけり   田村硯一
木枯や国を逐はるる人の群     上田純煌
無造作に人殺される夜半の冬    外崎喜右
韃靼の銀河たよりに密航す     外崎喜右 *韃靼(タタール)
別れかな樺太島の雪氷       上田純煌
寒月下いまは異国の山かたち    恩地樺雪
踏みしめる祖国の雪の降りにけり  伊藤雪女

*すべて『樺太歳時記』(国書刊行会)より

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