矢島渚男句集『野菊のうた』

矢島渚男句集『野菊のうた』は、句集『翼の上に』『延年』『百済野』のからの句抄です。波郷と楸邨、両系譜をひく渚男の世界に一気に引き込まれました。とりあわせの句に特に惹かれました。

『翼の上に』

鵯や食後の氷啄める
シャーベット。

三味線に猫の乳首や雪の宿
子を産んだ母猫か。

珊瑚咲く海に胎児と母の骨
沖縄の現実。

冬の汗乳暈のあたりにて甘し
にゅううん。

地層裂く寒満月の引く力
阪神大震災。

踊唄恋して鳥になりたしと
俗にして神話的。

『延年』

春宵やこのこを炙る祇園町
このこは海鼠の卵巣。

永き日や漱石に髭子規に鬚
くちひげとあごひげ。

みづうみに金銀の波山眠る
まばゆい。

大部分宇宙暗黒石蕗の花
ひっそりとかがやく命。

くじらにものこる体毛冬深む
くちひげ。
進化の時間。

穴釣の人よちよちと歩きけり
氷上では赤子にもどる。

『百済野』

行く春について行きたる子もありし
神隠し。

はんざきの小さな眼その宇宙
いかなる世界が。

摘みためてふんはり押へ蓬籠
かぐわしい。

月下美人その歯触りも忘れがたし
とりあわせ、でしょうね。

赤子にもむつかしき顔春の雪
とりあわせの妙。

風蘭や人もかなしくつくられし
同上。

流星やいのちはいのち生みつづけ
同上。

寒き日の緬羊に脚出てゐたり
にょきっと。

百済野に雲雀を聞きにゆきたしよ
奈良広陵にあるらしい。

戦争がもぐらのやうに春の国
顔出したらたたく。

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