かなかなのどこかで地獄草紙かな 飴山實

かなかなとは蜩(ひぐらし)のこと。蝉は夏の季語ですが、蜩は初秋です。その声は、夏の終わりのさみしさ、せつなさ、むなしさ、といった言いようのない気分そのものです。

地獄草紙とは、浄土仏教にある「六道」の思想に基づき、地獄が描かれた絵巻のこと。皮を剥がれたり、手足をもがれたり、目玉をくりぬかれたり、火あぶりにされたり、針山を登らせられたり、釜ゆでにされたり、現世に罪を犯した者たちが様々な責め苦にあう様子が描かれています。地獄草紙が盛んに描かれた十二世紀後半(平安末期から鎌倉時代にかけて)は、乱世です。おそらく実際に、ここに描かれた「地獄」のような苦しみとつり合うほどの苦しみがあったに違いありません。そして、今もなお世界のどこかに、そのような現実があるはずです。

この句は、かなかなの声が時空をこえて響いてくるようです。誰にも知られることもなく地獄のような苦しみのなかで死んでいった人々の御霊を鎮めるかのように。

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