風鈴やしんと戦争ありにけり 長谷川櫂
最後がもし「ありけり」であれば、むかし戦争があったそうだということになるが、この句は「ありにけり」。つまり、そこに戦争があった、そのことにいま気づいたということである。 しかも、この句は「しんと」戦争があったという。戦争...
最後がもし「ありけり」であれば、むかし戦争があったそうだということになるが、この句は「ありにけり」。つまり、そこに戦争があった、そのことにいま気づいたということである。 しかも、この句は「しんと」戦争があったという。戦争...
生きるために死んだふりをする蜘蛛の子。死んだものは殺せない。この真理を前に死すれば、大人と子どもの違いどころか、人と蜘蛛の違いすら意味をなさない。子どもながらにして、生きることに真っすぐな姿に心を打たれる。
フンコロガシは日本にはいない。夏の季語とされるらしいが、定着はしていない。かつて古代エジプトでは、フンコロガシは天の運行を司る神であったそうだ。糞を転がすごとく、天体を転がすというわけである。実際、フンコロガシは太陽や月...
角があり、光沢があり、堅い。その頭はまさに兜。兜虫は羽根を開くと、胴体が一回り小さく見える。その分、大きい頭部がさらに大きく、そして重たそうに見える。炎天に兜をささげ飛ぶその姿は、力強さだけでなく、あわれさをも感じさせる...
ふつう、黴を美しいとは思わないかもしれない。しかし、この句に出会ったからには、そうはいかなくなる。月光に照らされ、青白く光る黴のディテールが目に浮かぶ。命のかたちが、浮き上がって見える。陰翳礼讃の一句。 出典:『雪後の天...
風生晩年の鳥獣戯画を思わせる一句。蟹が何匹も代る代る自分のところにやってきては、泡をぶくぶく吐いては去っていく。擬人法の句だが、リアルな蟹の姿がいきいきと見えてくる。なお、この句には前書きがある。「微恙(びよう)のため一...
松瀬青々に「むらぎもの心牡丹に似たるかな」の句あり、と前書きがある。「むらぎも」とは臓腑のことで、心にかかる枕詞。しかし、この句には「心」という文字がない。おそらく、心は牡丹そのものにたくされたのだ。心物一如。 出典:『...