村上鬼城五〇句(千方選)

元日やふどしたたんで枕上
草の戸にひとり男や花の春
傀儡師鬼も出さずに去にけり
世を恋うて人を恐るる余寒かな
行春や憎まれながら二百年
春の雷一つ大きく鳴りにけり
谷底に雪一塊の白さかな
雪解やひよろひよろと鳶の声
治聾酒の酔ふほどもなくさめにけり
生きかはり死にかはりして打つ田かな
闘鶏の眼つむれて飼はれけり
地虫出てまた捜しけり別の穴
川底に蝌蚪の大国ありにけり
水底に蝌蚪の動乱して止まず
こともなげに浮いて大なる蛙かな
念力のゆるめば死ぬる大暑かな
死に死にてここに涼しき男かな
熊蜂の烈日に飛ぶ唸りかな
五月雨や起上がりたる根無草
露涼し形あるもの皆生ける
早乙女や泥手にはさむ額髪
老ぼれて武士を忘れぬ端午かな
酒飲まぬ豪傑もあり柏餅
ありがたき一向宗や生節
命あらばまた逢ひ申す扇かな
日傘して女牛飼通りけり
鹿の子のふんぐり持ちて頼母しき
老鴬に一山法を守りけり
蟇夕べの色にまぎれけり
夏草に這ひ上りたる捨蚕かな
けさ秋や見入る鏡に親の顔
後の月瑞穂の国の夜なりけり
秋風に古りゆくものは男かな
御仏のお顔のしみや秋の雨
迎火や恋しき親の顔も知らず
糸瓜忌や俳諧帰するところあり
稲雀降りんとするや大うねり
蛤に雀の斑あり哀れかな
柿むくやてらてらうつる榾明り
これを敲けばホ句ホ句といふ南瓜かな
もろこしのほつほつはぬる烈火かな
牛蒡引くやほきりと折れて山にひびく
死を思へば死も面白し寒夜の灯
小春日や石を噛み居る赤蜻蛉
大寒や北斗七星まさかさま
いささかの金ほしがりぬ年の暮
煮凝やしかと見届く古俳諧
何も彼も聞知つてゐる海鼠かな
冬蜂の死にどころなく歩きけり
大根に蓑着せて寝る霜夜かな

*すべて「定本鬼城句集」より。

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