石田波郷句集『惜命』

11月21日は波郷忌。深大寺に吟行しにいくたび、お墓に挨拶にいきます(ついで申し訳ないのですが)。深大寺から神代植物園に抜けていく道を左に折れていくと墓地があり、その中央付近に「石田波郷」と彫られた小さなお墓があります。たいてい供花があるし、立札もあるので、すぐわかります。

波郷といえば〈初蝶や吾三十の袖袂〉〈霜柱俳句は切字響きけり〉〈雁やのこるものみな美しき〉といった有名句が載っている句集『風切』をとりあげたいところですが、あえて『惜命』から選句をしてみました。波郷は戦中、結核性の病気だろうと思いますが、左湿性胸膜炎を患い、入院します。『惜命』はその闘病を題材にして詠んだ句集です。抒情的なんだけれども、品をのこしています。これは韻文性とくに「切れ」を重んじているからこそ出てくるものだろうと思います。

柿食ふや遠くかなしく母の顔

霜の墓抱き起されしとき見たり

妻が来し日の夜はかなしほととぎす

よろめきて孤絶の蚊帳をつらんとす

蟬かなしベッドにすがる子を見れば

桔梗や男も汚れてはならず

秋の暮溲罎泉のこゑをなす
溲罎(しびん)

痰コップ凍てしを誰に訴へむ

白き手の病者ばかりの落葉焚

蟇交む岸を屍の通りけり

つばくらめ父を忘れて吾子伸びよ

七夕竹惜命の文字隠れなし

栗落とす女を見つつ湯浴みをり

濃く淡く夜霧うごけり死を脱す

元日の夜の妻の手のかなしさよ

水仙花三年病めども我等若し
前書き「妻へ」。

かなしいんだけれども、生きることをあきらめていないし、どこか優しさを感じる句が多かったように思います。戦時下という時代状況をふまえないとなかなか受け止めきれない句も多いのは確かです。ただそこを押し切るだけの切実さが半端ないのです。できれば、一冊通して読んでみるとよいと思います。

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