あなたなる夜雨の葛のあなたかな 芝不器男
この句には前書きに「仙台につく途はるかなる伊予の国をおもへば」とあり、はるか彼方に故郷を想ふ句であることがわかります。ホトトギスに掲載され、虚子が絶賛したことで、不器男が一躍注目を浴びることになった句として、よく知られて...
この句には前書きに「仙台につく途はるかなる伊予の国をおもへば」とあり、はるか彼方に故郷を想ふ句であることがわかります。ホトトギスに掲載され、虚子が絶賛したことで、不器男が一躍注目を浴びることになった句として、よく知られて...
中七の「夕陽」のあとで切れを入れて詠むと、下五の「子と沈む」にものすごい重力を感じると思います。読み手も湯の中に引きづり込まれて、湯に聴覚が密封されるからでしょうか、現実から遮断されたような感覚に陥るのです。湯に沈んでい...
芯の芯まであつあつになった風呂吹き大根の上に、濃厚な味噌がかかる。大根があまりに熱いため、かけた味噌がとろけて、その側面を流れ落ちる。このわずかな瞬間をスローモーションでとらえた一句です。こういう映像は、映画やテレビで繰...
白藤が春風に揺られるときは、たしかに目に映る色は白だったはずなのに、それが止んだとたんに、その花びらの白の奥に緑が微かに見える。はっとして、その色に気づくもつかの間、またすぐに藤は揺れて白の残像にひきづられた花となる。つ...
この句の特徴を一つ指摘したいと思います。それはこの句が「対句」であるということです。つまり、対句はことわざや、とりわけ漢詩によく見られる、二つで一組の韻文形式です。つまり、語呂の近い言葉を対にして並べるわけです。もちろん...
小舟の舳(へさき)におかれている一本の百合の花。山百合か、姫百合でしょうか。ふと、この句を読んで思ったのは、この百合の花は供花ではないか、ということでした。その舟の行き来する河で亡くなった童女か、もしくは、船頭が先立たれ...
蜂の巣とは女王蜂を頂点にして様々な役割や働きのある蜂たちが集まって形成する一つの社会の「器」です。しかし、秋の澄みわたった川を流れていく蜂の巣には、満ち満ちていたはずの蜜もなければ、そこで生まれ育まれた数々の命のかけらも...