釘箱の釘ことごとく寒茜 長谷川櫂
釘箱を開けるとなかの釘がことごとく赤く錆びついていたのだろう。釘箱の外に広がる世界も、同様に真っ赤に染まっている。釘の赤がさらにあざやかにみえてくる。 また掲句を音にしてとらえなおすと、「KUGIBAKO NO KUGI...
釘箱を開けるとなかの釘がことごとく赤く錆びついていたのだろう。釘箱の外に広がる世界も、同様に真っ赤に染まっている。釘の赤がさらにあざやかにみえてくる。 また掲句を音にしてとらえなおすと、「KUGIBAKO NO KUGI...
地蔵に供えられた樒(しきみ)が野火につつまれる。おそらく地蔵もろともに。蕪村といえど、これはなかなか絵にしにくい光景であろう。蕪村は雪や雨、灯りも巧みに描いたが、炎は描いていないのではないだろうか。この句を詠んだとき、蕪...
前書きに一月十七日とある。寒のなゐとは、言うまでもなく、平成七年の阪神・淡路大震災のことである。「たたきつぶして」という言葉で、その直下型地震の激しい揺れのありようがうかがえる。杜甫は「国破れて山河あり」と言ったが、この...
空洞には「うつろ」とルビがある。空洞とは何もないということではない。たとえば、うつほ物語の洞窟や琴がそうだろうし、竹取物語でかぐや姫の出てくる「竹」、桃太郎の出てくる「桃」もそうかもしれない。つまり、なにかが生まれ出てく...
無為とは、人為的なところがないということで、何もしていないということではない。老子のいう「無為自然」とは、あるがままに、自然の本性にまかせれば、自ずと為すべきことを為すということである。生態学的には、海鼠は海底に積もる有...
一日という日常の時間を、この聖域と言ってもいい静かさの空間に変えるには、障子一枚の薄さでことたりる。障子を通して入ってくる外界の音は静寂のざわめきに変換される。また、そこに広がるやわらかな光は、心のぬくもりそのものとなる...