原石鼎五〇句(千方選)

暫定版です。

頂上や殊に野菊の吹かれ居り
鉞に裂く木ねばしや鵙の声
なつかしや山人の目に鯨売
やま人と蜂戦へるけなげかな
蔓踏んで一山の露動きけり
淋しさに又銅鑼打つや鹿火屋守
花烏賊の腹ぬくためや女の手
秋風や模様の違ふ皿二つ
凧あげて踏みあらしたる神田かな
炎帝の下さはやかに蛭泳ぐ
日輪をめぐる地球になめくぢり
身の秋や俳諧に生きて悔もなし
鞠の如く狸おちけり射とめたる
谷深く烏の如き蝶見たり
俎板にほどく鴨ありランプ吊る
昼ながら月かかりゐる焼野かな
日にとんで翼うれしき雀の子
日の泥を現はす沼や蘆の角
柿の蔕猿の白歯をこぼれけり
月さして消えし林や水の鹿
闇汁の葱かくしもつマントかな
神楽師の獅子かつぎゆく枯野かな
春鹿の眉ある如く人を見し
春宵の灰をならして寝たりけり
蛙の子一つ濃く出でて遊びけり
囀やあはれなるほど喉ふくれ
人の拳に羽ばたき上る鵜やあはれ
梟さびし人の如くに瞑るとき
うれしさに狐手を出せ曇り花
柿喰ふや俳諧我に敵多し
炬燵出て父大穴をつくりけり
水鳥やマントの中の懐手
北方に北斗つらねし焚火かな
吉野にてつくりし布団今もなほ
山茶花に日を疑わず歩きけり
雪の富士鏡の如き小春かな
雨を来し人の臭ひや桜餅
蜩の啼きかはしけり滝の面
秋の人呆然として灰の中
衣をぬぐ蟷螂怖ろしなゐの中
角欠けていよいよ老いし栄螺かな
いつの間に踏みまよひたる深雪かな
雪つぶて受けし一つを憎しめり
流れ星紅く燃えちり冷やかな
立春の大蛤をもらひけり
暁の蜩四方に起りけり
地に見つむ牡丹の燠に浄土かな
巌苔をむしり遊ぶや瀞の鮎
皆人を神とぞおもひ桃しやぶる
神仏の光りて白し雑煮餅

*全て『原石鼎全集』より

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