陀羅尼助でござりますると蟇 長谷川櫂


陀羅尼助(だらすけ)は腹痛の薬。大峯山の山伏たちが広めたとされる、古くからある薬で、元禄の頃に商品化されたらしい。苦さが特徴で、〈だらすけは腹よりはまず顔にきき〉という川柳ものこっている。

掲句は、蟇が陀羅尼助を売っているわけではなく、陀羅尼助を売りに来た薬売りが蟇のようだったととるのが普通だろう。「ござりまする」という台詞からすると歌舞伎の一場面を想像する人もいるかもしれない。

蟇の風貌は、怪しさ、小賢しさ、それでいてどこか憎めない人間味を感じさせる。古くは鳥獣戯画をみればわかるように、擬人化されたカエルがたくさん描かれているし、現代でも宮崎駿の映画『千と千尋の神隠し』に出てくる人間(男性)はカエルのように描かれている。

昔から、人が人を対象として見つめなおすとき、不思議とどこか狡猾でいて滑稽な怪しい生き物のようにみえるのだろう。

しかし、本当にそうだろうか。

掲句をもう一度読むと、「蟇のような人間」ではなく、「人間ような蟇」なのではないかと思えないでもない。本当は、人間に化した蟇が、人間のような言葉を使って、陀羅尼助を売っているのではないだろうか。

読むたびに、どこか人間と蟇の関係が反転しかねない世界へ引きずり込まれそうになる。不思議な一句である。

出典:句集『唐津』

1件のコメント

  1. 金峯山寺参道にある藤井利三郎薬房に入ると、「三足蛙」と呼ばれる巨大なヒキガエルの像が、まさに口上をのべるような姿勢で客を出迎えてくれるのだそうです。お店のホームページで確認できます。この薬房では「フジイ陀羅尼助丸」という胃腸薬を売っています。
    https://www.darasuke.co.jp/contents/category/location/

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