一読すると瑞々しい世界を想像するが、再度読み直すと、聖セバスチャンの殉教図が思い浮かんできた。それは、有名なイタリア・バロック期のグイド・レーニの聖セバスチャン図だ。
グイド・レーニの聖セバスチャン図は、腰衣一枚の裸の青年が、縛られた両手首を木の枝に吊され、脇腹を矢に射られている。どこからどう見ても倒錯した絵なのだが、三島由紀夫が少年時代にこの絵を見て、自らのセクシュアリティに目覚めたのだと『仮面の告白』に書いている(三島は後年、自らからこの絵のモチーフに扮した写真を篠山紀信に撮らせているが、なんとも不気味な写真である)。ちなみに、聖セバスチャンも実際はそのような美男子ではなく、髭を生やしたおじさんだったそうだ。
掲句は、この絵のパロディとしても読めるかもしれない。倒錯した世界を再度、清々しい世界に起こし直したような趣すら感じられる。
出典:句集『九月』