冬至を過ぎると、すっかり年の瀬です。流れゆく大根の葉のはやささながら時が過ぎていきます。このところ、俳句といえば岩波新書から刊行された『大岡信「折々のうた」選 俳句 』しか読んでおらず、この連載もしばらくあいてしまいました。ぼちぼち再開します。
今回は上田五千石の自選句集『遊山』から選句させていただきました。上田五千石は戦後の俳壇を支えた人物で、師系は秋元不死男。俳句の入門書を読んでいる方も多いかもしれません。正直、なんの予備知識もないまま、読ませていただきましたが、句の姿が格調を感じさせるものが、多かった気がします。
啓示乞ふ泉の面にくちづけて
青胡桃しなのの空のかたさかな
あけぼのや泰山木は蝋の花
秋蝶のたちのぼりきし深淵ぞ
渡り鳥みるみるわれの小さくなり
初めての螢水より火を生じ
山開きたる雲中にこころざす
冷まじき青一天に明けるにけり
凍滝の膝折るごとく崩れけり
山眠りかけては大き音起つる
これ以上澄みなば水の傷つかむ
太郎に見えて次郎に見えぬ狐火や
光りては水の尖れる我鬼忌かな
法の山すでに身に入む音ばかり
あたたかき雪がふるふる兎の目
落し文いづれさみしき文ならむ
うすらひに水のくまどり光悦忌
身ひとつを旅荷とおもふ葛の花
ちなみに「五千石」というとおよそ750トンくらいの量で、米にして五千人の一年分くらいなのだそうです。加賀百万石の200分の1と考えれば、だいたいの大きさ感がつかめます。