戦せぬ紙の兜のめでたしや 長谷川櫂

端午の節句のとき、新聞紙か何かで折った兜であろう。この紙の兜は飾りである。それをかぶっても、実際に刀で切りかかられたら、ひとたまりもない。紙の兜をかぶって、戦場に出ていくものはいない。だから「戦せぬ」なのだ。

この「紙の兜」とは、平和憲法のようなものではないだろうか。

刀で切りかかられれば真っ二つ。銃弾を撃たれれば即座に貫通する。そんな「紙の兜」=平和憲法をわれわれは掲げている。なぜなら、憲法にあるとおり、われわれは、平和を希求し、国権の発動たる戦争を永久に放棄したからである。

今この「紙の兜」は八方から批判にさらされている。そんなもので国民が守れるわけがない。憲法を改正して、「鉄の兜」で武装せよと。

昨年、ロシアによるウクライナ侵攻が起こり、国際的な緊張や対立が高まり、日本も戦争に巻き込まれる危険性があるというような世論が出来形成されつつある。2023年度の国家予算では防衛費は過去最大の7兆円近くに増額され、今後5年間で防衛力は大幅に強化されることになった。核武装を口にする政治家までいる。

いまこそこの「戦せぬ紙の兜」の力を忘れてはなるまい。

出典:句集『鶯』

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