空よりも大きな月の上りけり  長谷川櫂


人はなぜ月に引かれるのだろうか。

地球と月の関係は、科学の世界でも高い関心を集めている。たとえば、そもそも月は彗星のような天体であったが、あるとき地球と衝突して、地球の衛星になったと考える学説がある。さらに、その衝突の際に、月が地球に水をもたらしたのではないか、あるいは、生物の原型となるアミノ酸をもたらしたのではないか、という説まであるくらいである。

またその衝突の際、地球の地軸が傾いたとされており、そう考えると、月が地球の生態系に季節をもたらしたとも言えるし、生きものの多様な進化をもたらしたとも言える。

月の引力が海の潮汐運動を起こしていることは有名である。生きものでは、サンゴの産卵が満月の夜に一斉に行われるし、ウミガメは月の光を頼りに砂浜に戻る。海の生きものだけでなく、陸上の生きものもその体内時計は月と関係があるとされる。

人間が月に引かれるのも、その存在の起源に月が関わっているとしたら、当然と言わざるを得ない。

掲句だが、実際は月が空をはみ出てしまうほど、大きくなることはない。そこまで近づくならば、月は地球の引力に耐えきれず、粉々になっている。だから、この句の月は、心のなかの月である。

われわれにとって、月はあまりに大きな存在なのだ。

出典:『唐津』

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