南禅寺山門に秋迫りけり 長谷川櫂

南禅寺は、京都市左京区に位置する臨済宗の禅寺。有名な山門(三門)は、「天下龍門」とも呼ばれ、日本三大門の一つである。高さが二〇メートル以上あり、楼上からは京都市街を一望できる。歌舞伎『楼門五三桐』では、石川五右衛門が「絶景かな、絶景かな」と叫んだ場所でもある。

また、南禅寺の境内は自然豊かで、四季折々の風景を楽しむことができ、特に紅葉の季節には多くの参拝者が訪れる。なかでも離宮当時のおもかげを残した、鎌倉時代末期の代表的池泉廻遊式庭園は、京都三名勝の一つでもある。

といいながら、私は南禅寺を訪れたことはない。過去にあったかもしれないが、ほとんど記憶にない。にもかかわらず、一読して秋の気配を感じてしまう。
なぜそんなことになるのか。

この句は、この南禅寺の山門に秋が迫っていることに気づいたといっているだけであり、どのような秋が迫っているのかは具体的に書いていない。むしろ描かないからこそ、想像がかき立てられる。

もし南禅寺がどんな場所なのかを説明するような言葉を一つでも入れてしまえば、途端にこの句は報告におわってしまうだろう。

この句は、読む人によって、読むときによって、その秋を感じるものが違ってよいし、違うからよいのだ。

あなたにはどんな秋が感じられただろうか。

出典:句集『鶯』

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