能面の目鼻を抜ける初嵐 飴山實
屋外の能舞台に嵐が迫っているのだろう。初嵐は台風の前触れのような風のことで、秋を告げるもの。飯田蛇笏の〈なきがらや秋風かよふ鼻の穴〉という句は、もはやその鼻の穴には息がないということに気づかせる秋風だが、この句の初嵐は、...
屋外の能舞台に嵐が迫っているのだろう。初嵐は台風の前触れのような風のことで、秋を告げるもの。飯田蛇笏の〈なきがらや秋風かよふ鼻の穴〉という句は、もはやその鼻の穴には息がないということに気づかせる秋風だが、この句の初嵐は、...
残暑がこう続くと、ひと雨来て欲しくなるものである。この句は、きっとそんなときに走り雨が来たのであろう。下五の「みどりよき」とは、木賊(とくさ)が走り雨をうけて、にわかに鮮やかな緑色の光を発し始めたというだけでなく、読み手...
秋が深まると、朝晩の気温は急に下がる。朝になって、一夜にして冷たくなっているものに気づかされることがある。水もそのひとつだ。この句は、飴山實の〈水そのままに胃に降りてくる寒さかな〉という句と比べてみると面白い。冬の寒さの...
富有柿(ふゆうがき)は岐阜産の扁平にして大粒な甘柿。たしかに言われてみれば、その形は丸くもあり、四角くもある。世界の矛盾を引き受けたかのような、その柿の両義的な形を興がる一句。 ※古志HPの「今日の一句」の10月27日掲...
秋の潮は満ち引きが激しい。「あきつしま」とは、日本の本州の古名。秋津洲(島)や蜻蛉州とも書く。日本はその国土の三分の二を山林が覆い、三六〇度を海に囲まれた島国である。平地は、その弓なりの国土の輪郭線程度にしかない。それを...
笯(ど)とは、魚を捕るための仕掛けで、筌(うえ)ともいう。筒状や徳利状に竹を編み、その口に返しをつけて、入った魚が出られないようにしている。朝霧の静けさの中、この竹網の仕掛けが水面に返される。おそらく目前は霧だけであって...
この句には、「法然院、谷崎潤一郎、松子夫人の墓所」と前書きがある。この墓所には大きな鞍馬石が二つおかれており、その間には枝垂桜が一本植えられているという。左の石が谷崎夫妻の墓で、右の石は松子夫人の親族の墓。石には左が「寂...