国一つたたきつぶして寒のなゐ 安東次男

前書きに一月十七日とある。寒のなゐとは、言うまでもなく、平成七年の阪神・淡路大震災のことである。「たたきつぶして」という言葉で、その直下型地震の激しい揺れのありようがうかがえる。杜甫は「国破れて山河あり」と言ったが、この句に山河は出てこない。山河は眠ったまま。叩きつぶされた人々も、また「寒のなゐ」の前で途方に暮れている。しかし、人のこころもやがて山河に春がまた来るように徐々に動き出すだろう。
出典『花筧後』

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