この山にウヰスキー熟れ椎若葉 飴山實

上五の「この山」とは、大阪と京都の間にある山崎蒸溜所のことであろう。山崎はその水が万葉集に歌われていることでも知られる。椎も万葉集の歌に出てくる日本古来の樹木である。その山の風土を呼吸しつつ、遠い国に根を持つはずのウィスキーが熟成をむかえるのだ。どちらも独特の香りを放つ直前にあるウィスキーと椎。句を読めばたちまち、山からの風が香を運んできて、鼻の奥をくすぐられる感じがする。

ウィスキーは熟成樽の中で一年に一度の大きな呼吸をすると言う。その呼吸を繰り返し、透明な原酒はゆっくりあの独特な琥珀の色と香りを深めてゆく。椎は夏に独特な香りを放つ花を咲かせ、秋に実を落とす。葉は落とさずに越冬し、春に新たな芽を吹き、初夏にはまた金色の若葉となる。これも一つの大きな呼吸のように循環する時間と言えよう。

※古志HPの「今日の一句」の掲載(5月27日)にあたり、書き直しました。

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